風が通って髪がふわりと動いたとき。誰かが髪にそっと触れたとき。目で見ていなくても、その動きに気づくことがあります。髪のお手入れでは手触りを気にすることが多いけれど、今日は少し向きを変えて、「髪の動きを、私たちはどう感じているのだろう」と考えてみましょう。
髪の動きは、根元のまわりにも伝わる
皮膚の中で毛を包んでいる構造が、毛包です。そのまわりには感覚神経があり、風や軽い接触で毛が動くことが、神経へ機械的な情報を伝えるきっかけになります。毛包は、毛をつくる場所としてだけでなく、触れたことを感じるしくみからも研究されています。[1]
見えている髪の表面だけに目を向けると、「つや」「色」「長さ」が気になります。根元のまわりに視点を移すと、同じ髪が、外の動きを受け取るしくみともつながって見えてきます。
神経だけでなく、毛包の細胞にも注目した研究
2023年、インペリアル・カレッジ・ロンドンなどの研究チームは、ヒトの頭皮の毛包を使って、刺激が伝わるしくみを調べました。注目したのは、毛包を構成する「外毛根鞘(がいもうこんしょう)」の細胞です。[1]
体から取り出した毛包や培養した細胞での実験では、機械的な刺激に応じて、ATP、セロトニン、ヒスタミンといった物質が放出されました。さらに、ヒトの外毛根鞘細胞とマウス由来の感覚神経を一緒に培養する実験で、細胞からの信号が神経の反応に関わる結果が示されています。[1]
「神経が近くにある」だけでなく、その周囲の細胞とのやりとりも見る。研究は、髪の根元の小さな範囲を、いくつもの細胞が関わる場所として捉え直しています。
細胞の反応と、日常の心地よさは分けて読む
ここで大切なのは、この実験が、人の頭皮を日常的にマッサージして効果を確かめた試験ではないことです。体の外での毛包や細胞の結果だけから、実際の生活で起こる感覚のすべてを説明することはできません。
大学の発表でも、毛包の細胞が軽い接触の処理でこうした役割を持つ理由には、まだ分からない点があると説明されています。[2]発見は、すぐに「よいお手入れの方法」が決まることと同じではないのです。
たとえば、セロトニンという名前が出てきても、「頭皮を刺激すると幸せになる」と読み替えることはできません。ヒスタミンが出てきたからといって、自分のかゆみの原因が分かったわけでもありません。この研究を、強くブラッシングすれば髪が育つ、白髪が減る、といった効能の根拠にもしません。
触り方を増やさず、いつもの髪へ戻る
しくみを知ると試してみたくなりますが、髪を引っ張ったり、頭皮を何度もこすったりして反応を確かめる必要はありません。感覚の鋭さを比べたり、健康の採点に使ったりする話でもありません。
朝、髪をそっと整える。外へ出て、風で前髪が動く。そんな何気ない場面の背景に、神経と細胞のやりとりがある。新しい道具も、追加のお手入れもなく、見慣れた髪を少し違う角度から眺められます。
毛包のまわりには筋肉もあります。触覚とは別の働きとして、鳥肌に関わる小さな立毛筋の話も紹介しています。「髪の根元」とひとまとめにしていた場所に、異なる役割があると知る。それだけで、いつもの身支度に小さな発見が一つ増えそうです。
参考資料・編集について
- [1]Agramuntほか:Mechanical stimulation of human hair follicle outer root sheath cultures activates adjacent sensory neurons(Science Advances、2023年、doi:10.1126/sciadv.adh3273)。ヒト毛包の観察と、培養細胞・感覚神経を用いた実験。
- [2]Imperial College London:Hidden way for us to feel touch uncovered by Imperial researchers(2023年10月27日)。研究実施大学による解説。
編集:KIWABIヘアケア編集部。資料確認日:2026年10月28日。感覚の基礎研究を紹介する読み物で、頭皮の症状の診断や、化粧品・マッサージの効能を示すものではありません。