オーケストラの演奏会で、曲が始まる前に一つの音が長く鳴り、ほかの楽器が重なっていく。この場面は音の高さをそろえるチューニングで、オーボエの「ラ」が基準として使われます。知っている曲を待つだけでなく、この短い準備の時間へ耳を向けると、舞台の見え方が少し変わります。
曲ではなく、共に演奏するための音
ヤマハの「楽器解体全書」は、演奏直前にオーボエがラの音を鳴らし、各楽器がそれに合わせて音をそろえる場面を紹介しています。同じ名前の音を出していても、楽器の状態によって高さがずれることがあるため、音を合わせる時間が必要になります。[1]
客席では、これを曲が始まるまでの雑音として聞き流してしまうかもしれません。けれど、一つの音を基準に、さまざまな音色が重なる過程だと思って聴くと、楽器同士が互いの音を確かめる時間として感じられます。全員が同じ楽器を使っているわけではないからこそ、同じ高さを目指すところに面白さがあります。
基準の音にも、小さなリードがある
なぜオーボエなのでしょう。ヤマハは、音程が安定しているからという説と、その逆の説明があることを紹介したうえで、楽器の構造上、その場で音の高さを調整しにくいことに着目しています。弦の張り具合を変えるバイオリンのようには調整できず、リードの幅や長さが関わるため、ほかの楽器が合わせるという説明です。[1]
これは、オーボエがいつでも何もしなくても正確な音を出す、という意味ではありません。基準になる音の背後にも、奏者と楽器の準備があります。
オーボエの吹き口には、二枚を向かい合わせたダブルリードがあります。ヤマハの構造解説では、葦の一種であるケーンを削り、金属管に糸で巻き付けるとされています。二枚の間の小さなすき間を息が通り、リードが開閉する仕組みです。[2]
遠い席から吹き口の形まで見分けられなくても、あの音の始まりに小さな二枚のリードがあると知ると、舞台上の楽器を少し具体的に思い浮かべられます。
次の一曲の前に、耳を向ける場所をつくる
次に演奏会へ行くなら、チューニングの音が聞こえたところで、一度プログラムから顔を上げてみるのも一案です。最初に響いた音へ、どんな音色が重なってくるでしょうか。楽器の名前をすべて当てようとせず、細い音、厚みのある音という自分の感覚から聴いて構いません。
ここで紹介したのは一般的なオーケストラの場面です。編成や公演によって準備の進め方は違うので、決まった順番を探すより、その日の舞台へ注意を向けます。静かに待つ時間の中にも、奏者が一緒に音楽をつくるための動きが見えます。
やがて音合わせが終わり、曲の最初の音が鳴る。ほんの短い準備を聴いていた分だけ、その始まりが少し楽しみになるかもしれません。
参考資料・編集
ヤマハ「楽器解体全書」より、[1]「オーケストラの音合わせをオーボエがリードする理由は?」、[2]「ダブルリードの仕組み」。
編集:KIWABIヘアケア編集部。資料確認:2026年10月30日。聴き方は編集部の提案です。