海外では、幽霊というとハロウィンを思い浮かべますが、日本では先祖が帰ってくるお盆が夏にあるため、この時期に幽霊の話などに触れる機会が増えるのです。
皆さんは、幽霊というとどのような容姿を思い浮かべますか?多くの人は、長い髪に白い服を着た女性を思い浮かべたのではないでしょうか。
日本で幽霊というと長い髪に白い服がスタンダードですよね。しかし、なぜ昔から幽霊というとこの容姿を思い浮かべるようになったのでしょうか。
そこでこの記事では、日本の幽霊がなぜ長い髪に白い服がスタンダードになったのかをご紹介しようと思います。
1.日本の幽霊の始まり

まず、日本で幽霊について語られるようになったのはいつ頃なのかを説明します。幽霊が初めて日本の資料に登場するのは平安の後期ですが、この時点では文献のみで挿絵などはありませんでした。
私たちのよく知る長い髪に白い服の姿を描いたものは、まだ登場していません。その後、鎌倉時代や室町時代の絵巻に妖怪の絵が登場しますが、ここでもまだ幽霊は描かれていないのです。
しかし、日本を代表する古典芸能「能」には幽霊の登場する作品が現れており、やがて怪談も語り継がれるようになりました。
◆幽霊に女性が多いのはたまたまなのか?
幽霊と聞くと、やはり長い髪に白い服を着た女性を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。もちろん、落ち武者のような男性の幽霊を思い浮かべる人もいるかもしれません。
しかし、世に出回っている心霊写真や心霊動画は、女性のほうが圧倒的に多いのです。また、幽霊と似たもので妖怪がいますが、妖怪は動物をイメージしたものや性別不詳のものが多いです。
そこで話を戻し、幽霊に女性が多いのはなぜかというと諸説ありますがその中の一つの理由をご紹介します。
古墳時代以降、日本では男性が権力を引き継いでいく父系社会が続き、女性の地位は長期に渡り低いのが当たり前でした。そのため、女性は男性より劣った存在とみなされていたのです。
男性は心のどこかで、そのような社会にもまれている女性に対し、「自分が恨まれている」「いつか復しゅうされるのではないか」という女性に対する罪悪感や差別感情を抱えていたのではないだろうかという説です。
有名な物語で、「お岩さん」や「お菊」があげられますが、彼女らも根本的な原因には、社会的な地位の低さが根深く関わっていることがわかっています。
あくまで一説ではありますが、幽霊に女性が多いのは、社会的地位の格差が古くからあった日本の象徴ともいえるかもしれません。
2.長い髪に白い服がスタンダードになった理由
長い髪に白い服の女性が幽霊のスタンダードになったのは、江戸時代だと言われています。
江戸時代になると、怪談噺などが大流行しました。
また、江戸時代初期、円山応挙(まるやま おうきょ)の描いた幽霊は、髪を乱し、青ざめた顔に白装束だったのです。とても人間に近く、リアリティあふれる姿をしていました。
これが現在の「幽霊のイメージ」の典型になったと言われています。これ以降、「雨月物語」「牡丹燈籠」「四谷怪談」などの幽霊の登場する名作が数多く生まれ、江戸の絵師たちの手により水墨画や浮世絵などにも盛んに女性の幽霊が描かれるようになりました。
一方、海外で描かれる幽霊は姿の見えないものや首のないもの、ゾンビのような死体を動かすものなど、さまざまな姿をしています。しかし、日本の幽霊は長い髪に白い服といった実物の人間に近い姿が多いです。
お化け屋敷などでもおなじみのこの姿は、江戸時代に盛んだった演劇や文芸の影響だけでなく、日本では古来から 白い着物は死に装束なのが関係していると想像できます。
また、昔の人はあまり髪の毛を短く切る習慣がなくいつもまとめ髪にしていたことから、髪をほどいたら長いと考えられていたからではないでしょうか。
3.日本の幽霊に足がない理由
日本の幽霊でもう一つ特徴的なのは、足が描かれてないことです。足がない幽霊の絵を描いたのは、江戸時代に活躍した円山応挙であるという有名な説があります。
反魂香(はんごんこう)という焚くとその煙の中に死んだ者の姿が現れるという伝説上のお香があります。もとは中国の故事にあるもので、反魂香の煙に隠れて足のない幽霊が描かれたという話があるのです。
また、応挙が描いたとする別の説では、夢枕に亡き妻が出てきて、その霊には足がなく、まるで宙に浮かんでいるようだったという話もあります。ほかにも、夢枕に出てきた霊をその場で急いで描いたところ、間に合わずに足のない幽霊になったという話もあるようです。
このように応挙が描いた足のない幽霊画が広まり、日本の幽霊には足がなくなったと言われていますが、応挙が生まれる60年前には足のない幽霊が描かれていることもわかっており、この応挙説は定かではありません。
4.まとめ
夏になると、テレビなどでも特集が組まれ怪談などに触れる機会が増えます。長い髪に白い服の女性を思い浮かべる機会が増えるかもしれません。
今回は、日本の幽霊のスタンダードが長い髪に白い服になった理由をたどって考えてみました。根底には古くから男性社会でおざなりに扱われてきた女性の恨みからきているかもしれないという何とも興味深い話もありました。
しかし、これらはあくまでも一説にしか過ぎませんが、昔から書物や最近ではアニメなどでも親しみやすく描かれていることもあります。
もはや、さまざまな媒体で語り継がれていることは日本の幽霊文化の表れと言っても間違いないかもしれませんね。
【本記事の要約】 日本では、夏になると幽霊に関する話題が増えます。特に、「お化け屋敷」や「肝試し」といったホラー体験が一般的です。幽霊と言えば、長い髪に白い服を着た女性の姿が思い浮かぶことが多いですが、なぜこの姿がスタンダードとなったのでしょうか。実は、日本の幽霊の姿が定まった背景には、江戸時代の怪談や文化的要素が影響しています。平安時代には幽霊の記録はありましたが、具体的な描写はありませんでした。女性の幽霊が多い背景には、古くからの社会的な女性の地位の低さが関わっているとも言われています。江戸時代に幽霊のイメージが確立され、特に円山応挙による描写が大きな影響を与えました。また、足のない幽霊という特徴も、応挙の絵画が広まったことで定着しました。このように、日本の幽霊文化は長い歴史とさまざまな社会的背景を反映しています。 |