カーディガンを羽織り、上から順にボタンを留める。いつもは指先だけで済ませるところを、今日は一つ、目でも見てみます。縁が少し盛り上がっている。真ん中だけ色が深い。服全体の印象は覚えていても、毎日触れているこの小さな部品の顔は、意外と知らないものです。
器をつくる人が、ボタンもつくっていた
20世紀を代表する陶芸家の一人、ルーシー・リー。薄い器や美しい釉薬で知られる彼女の仕事には、服に付けるボタンもあります。英国のV&Aの解説によると、ロンドンへ移ったリーはガラス製のボタンづくりに携わり、その後、自宅の工房で陶製のボタンを手がけるようになりました。
粘土をひねる形、型を使う形。V&Aが紹介する見本には、花や結び目を思わせるものがあり、デザインにはローズやレタスといった名前も付けられていました。服地の見本に合わせて、ファッションのためのボタンを制作していたことも記されています。詳しい作品画像は、同館のボタンについての解説で見ることができます。
ボタンが変われば、服の中央に生まれるリズムも変わる。大きな模様を加えなくても、留め具の一つ一つで装いを考えられる。そのことを、リーの仕事は具体的な形で見せてくれます。
色、縁、並び方。三回に分けて見る
作品画像を見るときは、まず好きな色を一つ選んでみましょう。次に、輪郭をたどります。丸に近いのか、折り畳んだリボンのようなのか。最後に、同じボタンが服に三つ並んだところを想像する。一粒を眺めるときとは、少し違う顔が浮かんでくるかもしれません。
ここで面白いのは、器のように中へ何かを入れなくても、陶芸の色や凹凸を身に付けられること。小さな面積に、つやのある所と落ち着いた所が隣り合っています。何でできているかを知らずに見たあと、素材の説明を読むと、最初の印象との違いも楽しめます。
リーのボタンは、のちに三宅一生の服にも使われました。V&Aの陶芸家紹介には、二人の交流と、三宅が彼女の戦時中のボタンをコレクションで用いたことが記されています。制作された時代を越えて、別の服の上で新しい役割を持つ。部品にも、そんな長い時間があるのです。
手持ちの一枚にも、小さな見どころがある
歴史的なボタンを手に入れなくても、家にある服で続きを楽しめます。服を平らな所へ置き、一番上のボタンから裾へ目を動かしてみてください。布と同じ色なら、立体だけが静かに見える。違う色なら、点の列が浮かぶ。丸いものと四角いものでは、どんな言葉が似合うでしょう。
「きちんとしている」「少しおどけている」「砂糖菓子みたい」。専門用語でなく、自分が思い付く言葉で十分です。髪を整えたあと、全身の鏡でそのボタンをもう一度見ると、手元で見たときより控えめに感じることもあります。近くで見つけた楽しみを、自分だけが知っているのもいいものです。
付け替えたくなったら、まずボタン穴との大きさ、重さ、裏側の形を確認しましょう。飾りとして好きなことと、服を無理なく留められることは、両方確かめたい点です。大切な服や扱いに迷う素材なら、お直し店に相談する方法もあります。眺めるだけの日があっても、もちろん構いません。
留め具から装いを見る楽しみは、ブローチの裏側に目を向ける記事にもつながります。明日の身支度で、ひとつのボタンに気が付く。それだけで、いつもの服に話の種が一つ増えそうです。
出典・編集について
- Victoria and Albert Museum「Lucie Rie: A Secret Life of Buttons」
- Victoria and Albert Museum「Lucie Rie: a Modernist revolution in British studio ceramics」
編集:KIWABIヘアケア編集部。文化・作品・施設情報は上記の公式資料を2026年10月6日に確認。鑑賞の提案や日常の場面は編集部によるもので、訪問・取材体験ではありません。
画像:AI生成のイメージ。現代のボタンと服を想定した創作で、ルーシー・リーの作品や特定商品を撮影・再現したものではありません。